幻の少年





「こんにちは！」

「こんにちは。」

エレベーターがちょうど降りてきた時、

その男の子は、日焼けした顔をきちんと一瞬下げて、挨拶をした。

「昨日の雨が、あんまりひどかったものだから、

児童会館の横に隠していた自転車を、今出してきたんですよ。」

この子のランニングシャツは、どこか見覚えがある。

「雷もひどかったものね」

「ええ、でも、滑り台も、鉄棒も、みんな無事だったと、話していたようですよ。」

「・・・」

「それでは失礼します。」

少年は３階でエレベーターを降り、小走りに駆けていった。



あとからわかったことだが、

今このマンションの３階には、入居者は無いそうである。



君、もし今これを読んでいたら、

今度は一緒に５階で降りて、

僕の部屋で、かき氷でも食べていかないか。