靴下実話

靴下の片方がなくなった
黒くて　薄い　履き心地もなかなか良いほうの靴下だ
いろんなところを探した
物干しの下
他の洗濯物の　袖の中
アパートのエレベーターの前
（別の人の洗濯機で　洗っているから！）
あった！
洗濯機の後に落ちている！！
洗濯機の前においてあるヘルスメーターに乗って
洗濯機の上におなかを乗せ
洗濯機の背面の床に　手を伸ばす
届かない
おまけに　ひねって　背中の筋をおかしくしたようだ
靴下ひとつに　こんなことは理不尽ではないか
でもあきらめられない
片方なくなるのは寂しい
相方も泣いているはずだ
そもそも　そこに　こいつを　孤独に置き去りにするわけには
いかないではないか
他の部屋から　プラスチックの棒のようなものを
持ってきて　それでサルベージする作戦
床の靴下　まで　スルスル伸ばして
靴下を　棒のようなもので壁側に寄せる
うまくいかないで　靴下は　床でのたうち打って
洗濯機の後の　１年分のほこりを丸めて　白い髭を
たくさん付けた
棒のようなものと壁で　靴下をはさむ
そして　ゆっくり　ゆっくり　上にあげていった
棒のようなもの　が 折れた
靴下のために別のものを壊してしまった
これもまたプラスチックスの運命か
あきらめた　
「棒のようなもの作戦」をあきらめた
洗濯機を移動させた
床に手を伸ばして　この１時間余りの目的をつかみとった
真っ白になった　黒い靴下と　手のひらが再会した
おかえりなさい
アパートの窓の所で　白いほこりを取っていく
飛んでいくほこりは　まるで　タンポポの綿毛のようで
夏風に乗って　飛んでいった
黒い靴下は　それを見て　ようやく眠りについたようだった