百鬼丸




中年の　夫婦と見られる二人が

地下鉄の中吊り広告を見て

ひとつひとつ　話題に　刷り直しており

それは　相手のことを　思いやった

やさしく　丁寧な　話のキャッチボールで

胸糞悪い。


私の目の前にある

男の腰のベルトは

安物で幅広の青い組糸で

胸糞悪い。


ポケットに　先端が見える

１０５円のボールペン　

それにグシャっと刺されて

私は　一駅手前で　降りた。

血まみれ。


世界に吐くための　唾が残っている。

私は　私の作った罪の姿と　闘え

人間に戻れる朝は　まだ遠い。